稚魚
あおい満月

右をとるか、
左をとるか、
減点で埋めつくされた
スマートフォンは
昇るように階段を降りる。

わたしは何処を
泳いできたのだろうか。

仕事ととは戦いだ。
孤独になろうと、
戦い続ける精神が大事だ。

あの日、
三周り年配のあの人はそう言った。

言い訳をするな、
嘘をつくな、
ぼうっとするな、
それは居眠りだ、

あの日、
二つ年上の課長は言った。

色々な人や言葉が
ストラップになって
この腕にぶらさがっている。
声を掛ける度に
敬遠の眼差しが邪魔をする。
私はどこまでいっても魚になれない
稚魚のままで。

駅前の魚屋で、
いなだとぶりが
互いに向き合いながら売られている。
出世魚のぶりは、
煮付けられたり焼かれたり、
刺身にもなる。
おまけに栄養価も高い。

家に着くと、
一通の書類が入っている。
半年前に出した、
文学賞詩部門の選考結果だ。

(佳作に内定いたしました)

また佳作止まり。
いつまでも大賞を取れない。
彩がないのだ。
ずっと水槽のなかで
仲間だってモニター越し。

(井の中の蛙大海を知らず)

玄関に入ると、
暑さで横になった母親が
鯉の腹をみせていびきをかいている。

(抜け出したい)

見つめていた窓ガラスが急に水浸しになり、

(驟雨だ)

知らないうちに、
身体がびしょ濡れになっている。

(私は稚魚だ)


自由詩 稚魚 Copyright あおい満月 2015-08-08 17:43:25
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