外側への境界
水素

僕はいつも余所見をしていた
視線の先には他人がいる
それは
嫉妬、恐怖、潮流に乗る時の合図
そのどれもが、自ら発したものではない
普遍的なものを意識した時に、現れる巨大な影
そのどれもが、僕の影ではない
そのどれもが、一つの影ではない
本当に多量の影が集まっている
形を崩さないように注意深く進む
今、全体が何処に居るかを見ている
それは集団の機能、記録の働き
どうしても遅く、
ぶつかり合い、せめぎ合い、重なり合う
それは集団より個が早いから
機敏さが犠牲になっている証拠
旋回でどうにかなるものではない
ルートを予め決めて行けるのは、外周を決める影たち
折り合いをつけながら、形を保つ
それも良いかもしれない、安全である
ただし、自分でひとつも決めることは出来ない

影が大きければ大きい程に
結局のところ、個の意思は薄れていく
だから、どうにか外側へ旅立てはしないかと、
自由に飛び立てないかと、手探りで外側を目指す
ああ、そういえば、どちらが外側か、
もう分からなくなっている

動けばぶつかるから、そちらへ行ってしまう
ならば、逆方向へ、と向かうも
そちらが外とは限らない

いつか、影の中にも流れがあることに気がつく
その流れに、どちらが外側か教えてもらえる
誰もが、そのぎりぎりを目指して周回しているからだ
その軌道に乗っかって、ああ、また潮流だ
一体、何回やれば気が済む、また潮流だ

回路の端を通って行く
流れと流れの間を見つける
それに沿えば、いつかは外へたどり着くはずだ、
何故なら皆、外側への境界で折り返しているから

いくつかの境界を渡って、なかなかの面白さを感じていた頃、
ついに外の空気が香る境界の近くへ
なにも準備はしていない
なにも用意はない

用意がない?
本当に?
思い出せ。
それは最初の意思。
つまり、原始の動機。

瞑らせろ、瞼を。
言うことを聞かない手足、身体が
そんなことはさせない。

外は白く見えた。
単純な危険を感じさせた。
瞬く間に恐怖は沸き起こるが、それも一瞬

次には、
影だと思っていたものが
細かい粒子になり

昇る
白い天に
死んだか?

ああ、いいや、死んではいない。
生きているじゃないか。

本当に、周りが良く見える。

しかしなんだ、死んですらいないのか。
まったく、気が抜けてしまうな。


自由詩 外側への境界 Copyright 水素 2015-08-06 21:29:26
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