もう風が吹いて
ブルース瀬戸内

わしゃ知らんよ
伯父はそう言う
本当は何もかも
知っているのに
謙遜してるのか
恥ずかしいのか
わしゃ知らんよ
伯父はそう言う

体調が悪くなり
辛かったと思う。
簡単なことでも
簡単にはできず
やりたいことの
半分もできずに
なのに世の中が
以前より見えて
やけにクリアで
理屈やら摂理が
手に取るように
分かったようで
綺麗なもんやな
そう呟いていた。

灰になったって
伯父が大好きだ。
風に運ばれても
伯父を忘れない。
素敵な記憶なら
人は覚えている。

口は悪かったが
屈託ない笑顔で
お酒が大好きで
家族に優しくて
自分の体の事は
ほったらかして
でもまだ早いよ。
まだ話したった。
もっと飲みたい。
馬鹿話を教えて。

わしゃ知らんよ。
よぉ分からんよ。
なんでみんなは
わしに優しいん?
ずうっと前から
なんでなんやろ?
わしゃ知らんよ。
知らんが嬉しい。
えらい嬉しいよ。

ちょっと聞けや。
まぁあれやろな
笑顔を忘れんな。
簡単なようでな
簡単やないから。
うんと強くなれ。
あとすぐ泣くな。
と伯父は言った。
僕は手を握った。

もう風が吹いて
伯父はいないが
絶対忘れんから
絶対忘れんでよ。
強くなったとこ
絶対見といてよ。


自由詩 もう風が吹いて Copyright ブルース瀬戸内 2015-08-06 12:35:19
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