モウモクちゃん感傷
初谷むい

その程度のものなんだよ、図書館でミント味のコーヒーどくどく、血液みたいね、こぼしながら、単なる五億としての私をみんみんとあの人の言葉が引き伸ばしている。本当に本当に、いらなかったんです、

(館内放送)

よく晴れた日の脱毛、それで価値が倍増するよ、女の子だから、そうじゃなけりゃ、死ぬしか、ありません。

終わり。

五億のうち三億くらいはあの人の前で死んでいるね、恋は罪悪って、かっこいいけどだっせえから座右の銘みたいに使ってるけど、合ってる?三億は世界のかたちを知らずに震える脳細胞。ああ息をするたびぽろぽろびちゃびちゃわたしが漏れている。本当のことなど、知らなくていいし知りたくない。って思っていること、知っているから、パソコンのバッテリ咥えて人間をやめるための活動にご執心ですね、って言われるの待っている。きもちわるい。しねって、思う。死ねって思ってること、知られたくないな。
ひかひかの携帯電話、けいたい でんわ ほらなんだかわからない。全部全部なかったことにして、残りの二億を認めてほしいな。

いい部分、好きな部分だけ、知っていてほしい。

二億、とはちょうどいい大きさで、わたしがそれだけで構成されているってだますことができる、弁当箱の、具、だね、でかいやつ。牛丼の上。おこめがなくたって、買ってくれるかもしれないでしょう。うそっていわれてもかまわない。買われていく、おうちにいく、その事実だけで牛丼のウシ(わたし)は大満足、(棄てられたって)しんだって、かまわないんだよ、そのまま。べにしょうがとしてのきれいなきれいなアクセサリ、集めてはばかだなって思っている。こんなこんなものでわたしを飾ることはできない。三億がいる限り、わたしはきれいにはなれない。くさりかけている、コンビニの、不良品の、お弁当にしか、なれない。ああ、三億がうなりを上げる。しんじゃえ。しんじゃえ。転落するには距離なんて足りないから、ヒールの足を折り曲げている。足首が泣いている。うるさい。
ひかひかの携帯電話が機能するのはときたま。いらないいらないって言い聞かせるのにあきてあきてあきて、本当をくちずさみそうになるのを止めてくれる魔法の玩具。偽物の宇宙標本。パラレルワールドの色鉛筆。ほおずりするのが許されるから生きたい。とめて

よく晴れた日の廃棄物、ひとつまみの絶望。ひろがる夏のあお、きれいな詩が思い出せない。
いいよっていう声が聞こえて、でもそれがなんだかわからなかった。きしきせい

冷房のあつさが好きだよ。
生存としての頬ずりをして、図書館の机の温度があまい。


自由詩 モウモクちゃん感傷 Copyright 初谷むい 2015-08-05 14:18:26
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