月を追いかけていた
ユッカ

見てご覧
卵みたいな月だよ

見てご覧
オバケみたいに真っ赤な月だね

ちゃんと 見て
あっ 見えなくなった
もう せっかく綺麗なのに

高校時代 母が迎えにきてくれる車の中で 
毎日 泣きました
クラスに馴染めず
部活では重い役目をおわされ
自分を好きだと言うひとのことは
みんな嫌いでした
わたしは一日の終わりにさえ
明日の予感に耐えきれず
片道30分もかけて
車を運転してきてくれる母に
毎日 悪口ばかりわめいていました

わたしが
「みんな頭が悪いんだ」と言えば
母は「林檎畑の花がまだ咲かないね」と言い
「どうしてあたしばっかりつらいの」と言えば
「この前カモシカを見たよ」とか
まるで関係のないことを言うのですが
月はその中でもよく話題にでたモチーフでした
そんなことより わたしは
わたしの話を聞いてほしかったのですが
思えば母は わたしが泣いてぐずった帰り道にかぎって
そう言っていたように思います

月なんてどうでもいいじゃないですか

わたしは故郷にいる間
夜空が綺麗だと思ったことなんてなかったので
携帯電話からロックミュージックを流して
ぶすくれていたのですが

あっ綺麗!

母がそう言うので
つい つられて
前を向いていた
それも事実だったと
今ならわかります


自由詩 月を追いかけていた Copyright ユッカ 2015-08-04 20:27:33
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