スナップ写真
ヒヤシンス


 夏の日差しを浴びて影が私の前を歩いてゆく。
 大通りから一本中に入った林道に避暑客は少ない。
 挨拶を交わすのは老人だけで見知らぬ若い友人たちは
 まるで私を影だと思っているのだろう。

 切り株が剥き出しになっている木陰に腰を下ろし
 私は古い友人の詩集をめくってみる。
 目深に被った帽子の隙間から汗が滴り、
 詩集の上に今夏の記憶を刻み込もうとしている。

 もはや避暑地とは呼べなくなったこの村に
 古い友人は何を想うだろう。
 日本の夏の灼熱におろおろ歩くだけだろう。

 道路脇を流れる小川の水に手を浸し、
 汗を何度ぬぐっても、小脇に抱えた詩集はよれよれだ。
 おーい影よ、どうか私をおいて行かないでおくれ。


自由詩 スナップ写真 Copyright ヒヤシンス 2015-08-01 03:50:53
notebook Home 戻る