蝋館
アラガイs


小鳥たちの鳴き声
ここはドームだろうか
不思議と羽の音がしない
首筋から胸もとにかけて
蝋の塊は溶けて垂れていた
とっくに扇風機は止まっているのだ
目が覚めるのはいつもこんな調子で
湿った布地に絡まれ
防虫剤の味で舌は灰に焼かれる
起き上がると分泌腺から汗が吹き出した


冷たい水にあたるまで台所で顔を洗い口に含む
その前にもトイレに向かわなければならない
台所の温度は常に三十度を超えていた
(わきの下から股関節にかけて、脂身の皮膜が一枚重なるようだね)
窓は開け放たれた網戸
しばらくするとうんちの匂いがした
(あれ、流し台の残飯か隅のゴミ袋だろうか
まさか、肛門じゃないよな)
まとわりついて臭い、臭い臭い、暑い、臭い
匂いを辿って部屋中を歩き回る
暑い臭い、臭い、暑い
風もない窓を大きく開けて息を吸い込んだ
(なんだ、外の空気が臭いんじゃないか
だったらみんなうんち臭いんだな(笑)

昨日の晩、フライパンを空焼きしたのを後悔した
年金のニュースに見入ったからだろう
冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出す
流し台の残飯を浚う
もう耐久年数はとっくに越えている
かび臭い壁紙が炎に包まれて
蝋人形の館には蝿もいない
咽ぶのは腐臭が過ぎ去るように
蝉の鳴き声が響いていた 。








自由詩 蝋館 Copyright アラガイs 2015-07-30 14:24:09
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