エアー・コン (即興ゴルコンダより)
ハァモニィベル
子どもの頃。よくそれをやった。小学校三年だったか四年だったか覚えていないが、とにかく、その頃。
ぼくらは、その変わった遊びに熱中した。とにかく、ありふれたごっこ遊びではなかった。
その夏のある日。ぼくらは、公園でやはりそれに熱中していた。それは、凶悪犯を護送する遊びだ。
ニコラス・ポーというのがぼくの名前で、ぼくは軍を除隊したばかりだった。いちばんの仲良しだった、
近所のクボタくんが、酒場で妻にからむ酔っ払いの役をするところからその遊びは始まる。ぼくの妻は、
学年一のマドンナ、ユカリちゃんだった。だから熱の入ったぼくは、思いの外クボタくんを強めに蹴ってしまった。
こうして、うっかりクボタくんを殺してしまったぼくは、第三級殺人に問われるハメに陥るのだが、そこで、遊びも
次の展開に移る。
舞台は刑務所である。服役したニコラス・ポーことぼくは、(さっき入ったばかりだが)模範囚として仮釈放の
決定を告げられる。勿論、それを告げる所長は、さっき殺されたばかりのクボタくんだ。
舞台は大きく移動する。というより実際は、一同が舞台(ジャングルジムとシーソーがある所)へ移動する。
そこには、囚人輸送専用機C-123K(通称:コン・エアー)があるからだ。
ぼくがそれに乗り込と、悲惨なのか幸運なのか、そこにわがクラスのジャイアンであるイサムくんが、やって来た。
小判鮫のヒライくんを連れて公園に現れたのだ。砂場で遊んでいた幼児の作品を足で壊して嬉々としている。彼は、
ぼくらにすぐに気づいた。「何やってんの?」。硬直気味のクボタくんが、ぼくに眼の合図を送ったのを、わがクラス
のスネオ、ヒライくんは見逃さない。「何んか楽しそうじゃん」。クボタくんの黙秘権もむなしく、マドンナのユカリちゃんが
これまでの展開を滔々と二人に説明し、「タイミングばっちりだわ。丁度、凶悪犯が必要な場面なの。あなた達やってよ」。
ユカリちゃんの配役に、イサムくんは渋るが逆らえない。マドンナ豪腕プロデューサーに、名脇役クボタくんも、多すぎる役が
減ることを歓迎した。
ストーリーの再開である。
俄然、状況がリアルになった。イサムくん程の凶悪犯はいない。いや、その名もヴァイラス・マルコヴィッチ。離陸後直ちに、
コン・エアーは彼にハイジャックされるのだ。イサムくん、いや、ヴァイラス・マルコヴィッチは、その状況設定を最大限利用
する悪の博士号を取得している。天才的凶暴さは、しばしば、ユカリちゃんの、カットの声と演技指導で去勢されたが、
ぼくは、仲間と、このリアルに凶暴な敵に立ち向かうことになるのだった。エアー・コン・エアーは続く。夕飯の時間まで。