湿りと熱とを排して
日々野いずる

私の心はいつまでも若くいたいといっていた
それを枯れた体が巻き込んでしまい
くすぶり湿った一部を置いて
あとは全部干からびさせてしまった

枯れ木から思い出は零れ落ち
伝えきれるはずの想いは風に散らされ
わずかに残った欠片ばかり繰り返し蘇る
同じ話しかできぬようになる

それでも
生きていた軌跡を残すのに
孫を捕まえては
手を握り
熱を伝えて
湿った口調で
話す


とうとうその日が来た
ふっと軽くなる体
重石をとったように
空をかけていくことができた
何も気にせず、何も気にせず

そこにあったくすぶりはどこかにいってしまった

魂が抜け落ちると
空虚さを漂わす穴あきの話だけが残り

そこにあった湿りはどこかにいってしまった






お題:老いてもなお


自由詩 湿りと熱とを排して Copyright 日々野いずる 2015-07-29 11:41:33
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