群がる
あおば

          150729

軍事政権を倒せ!
威勢のいい声を腹の中に納め
今日も訓練に精を出す
一家に一人は義務
2人ならばなお良し
3人ならば尚更良し
どこまで続くカーキ色の靴音が
寝耳に響く、開戦前夜
1キログラムのビーフテーキに齧り付く
ノルマンディー上陸前夜の米兵の群れ
当方は一切関知しませんと
日の丸弁当を誇らしげに拡げる
我が軍勝利を疑わない神国の兵卒群れが
3人ならば尚更良しの子供らの群れが
芋の尻尾をかじる戦争孤児の運命を
イメージできたとは思えない
私の親父は、帝都の守りで横須賀に居て
武装解除後の復員時にいったいいくら貰ったのだろう
ある程度のまとまった金額は貰えた筈なのにそのことは
一切伝わっていたない
銃後の事情に疎い父は、酷い食糧不足も知らず
威張り腐っていた元将校を袋叩きにする同僚を横目に
重くない程度の缶詰をリュックに入れ、元気な姿で
復員した
家には、ろくな食料もなく、小さい子供らが群がっていた
こんなことなら、持てるだけの食料を持ってくるんだったと
後悔したかは知らないが、とにかく、銃後では決して食べられない
ご馳走の缶詰を持ってきてくれたのは確かだった。
知っていれば、もっと運んで来るんだった
食べ物なんかには全然不自由してなかったんだから
どこに配属されるかは偶然ではなく、かなり恣意的に配属が決められていたようで
必ず戦死する部隊に送り込まれ、気に入らない人物を合法的に死の粛清したのだと
ある人物は悔しそうに語る。
父は、なんの後ろ盾のない一兵卒だが、終戦時に腹いっぱい食えた部隊に居たのは
幸運と言おうか、それとも前世の行いが良かったのか分りません
陸続と続く軍靴の音を聞きながら
羊が一匹、二匹と数えながら今夜も眠る
ぐんぐんと揚がる積乱雲
威張り散らして後には
涙を集めて雹を降らしたりする
酷暑の夏には哀しい思い出も多くて
八月の声を聞くと
少し憂鬱になる習慣が出来たようだ
群れなす大軍に、蹂躙される夢
無辜の民の上に爆弾のお見舞いを投下する夢
群れ群れすると眠りが浅い
金属片をばら撒いてレーダーを霍乱する
群れ群れ群れ
ちりちりばらばらが集まって
群れ群れ群れ群れ
羊の大群が押し寄せる秋の空には
まだ少し間があるようです。


初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/
  タイトルは、こうだたけみさん。






自由詩 群がる Copyright あおば 2015-07-29 00:27:36
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