神隠し
為平 澪

西日のツンと熱さが刺さる土の上に
父の遺骨は 埋められた
真新しい俗名の墓石は それぞれの線香の煙に巻かれながら
親族が帰るまで夕暮れの空を 独りで支えなければ 誰一人として
家に帰ることは出来なかっただろう

役所からもらうたくさんの紙に 父の名は散らばり刻まれ転がされた
間違えられた「 父 」や「 本人 」という文字は シュレッダーにかけられ殺された
名前の欠片が灰のように飛ばされながら 塵のように「 父 」の影だけ残していく

完成書類に捺印が押され紙切れに命を吹き込まれると
ファイルたちが「 父 」を平らなケースに寝かせて処理する
紙切れは死んだ父の変わりに甦り「 生存給付金のおしらせ 」として
父のような顔をして家にやってきた

多くの書類、封入された御仏前の抜け殻、法事の残りの熨斗紙
区役所たち死んで尚、父を管理しては紙幣で買い取り
手から手へと取り引きしながら橋渡し

   ( 施設も、付き合いも、契約内容も、法律も、
   ( 知ったもん勝ち、使ったもん勝ちなんだよ、
   ( しっかり読みなよ、自治区の広報。

赤いA4ファイルの回覧が怒鳴りながら
ほとんど毎日出歩きまわる

挟み込まれた広報便りを 老眼鏡でも読めない母が
広報に丸め込まれて潰される

重要箇所の小文字の隙間 煙に巻かれて挟まれて
神隠しにでもあったのか 母が回覧板を持ったまま
出て行ったきり 家にも帰って来やしない


自由詩 神隠し Copyright 為平 澪 2015-07-27 22:38:49
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