でもそれが乗り物であることはすぐ分かった
天野茂典

  トロッコだった
  小山が崩されて
  中学校が立てられるのだという
  その台形の天辺から
  したの道路まで
  レールが敷かれた
  なんだろうと思った
  今まで見たこともない代物だったからである
  でもそれが乗り物であることはすぐ分かった
  ぼくたちはトロッコに近づいた
  乗ってみた
  ブレーキをはずした
  トロッコは走り出した
  まるで飾りのない
  木の箱である
  だんだんスピードが増していった
  爽快だった
  だが距離が短いのですぐ着いてしまう
  トロッコを押し上げるのが大変だった
  出せる限りの力を出して
  天辺まで押し戻すのだ
  そうして一気に下るのだ
  10km 30km 50km
  空気が流れていった
  空気が分かれていった

  のちに芥川龍之介の『トロッコ』を読むことになるが
  この子供の頃のトロッコ遊びがとても役に立った

  トロッコ遊びはスリルがあった
  手に汗握る疾走だった
  遊園地では味わえない
  大人たちの飯場の遊びだった

  今でもあのトロッコはぼくの頭の
  海のヘリを疾走している



                 2005・02・12





未詩・独白 でもそれが乗り物であることはすぐ分かった Copyright 天野茂典 2005-02-12 17:09:58
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