夕焼けを映す汚れた水たまり
Lucy


土色をした歳月の掌が
猫の舌のようにざらつく突起で
軟らかな思想を舐め取っていく

塩責めされた蛞蝓は
実はそっくり中身だけ
粘膜を抜け出し
逃げていた

「それは 思想などではなく
 言わば感傷であり
 気分に過ぎないものであった」と


千切れのたうつ苦悶の日々を
些細な誤謬で上書きし
記憶の闇に生き埋める

屈辱の無力な闘いなどは
なかった 無益な抵抗も
敗北も無かった

胎動する歴史の只中に
たまたま居たかも知れないが
始めから主体ですらなかった私に
罪はなく

消された記録
色あせた写真
薄れた文字は
始めから無かった 私は
そこに居なかったと
うそぶく

死んだと見せかけ
生き延びる
粘膜のない蛞蝓たち



自由詩 夕焼けを映す汚れた水たまり Copyright Lucy 2015-07-26 22:56:47
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