同じ月
あおい満月

誰も言わなかったことがある。
私を食べたいと。
けれどもあの、
煙草で黄ばんだ刃は
少しずつ私の頭に浸透した。
そうして私に似合わない
眼鏡を掛けさせ、
どこにでもある
街路を歩ませた。
更には私の前髪を掴み
後ろで縛り、
眉を剃り落とし、
人形をつくりあげた。
あの五畳の空間で
私たちは、
間接的な「愛」を、
愛と呼べるのかわからないものをしゃぶりあった。

空白だけが残った。
誰かがいて、
誰もいない。
そんな記憶が、
脳裏に雪になって
こびりついた。

今は、
私は雲ひとつない
真夏の空を仰ぎ
笛を吹いている。
私の部屋には、
誰もいないが
あたたかな、
優しいぬくもりがある。
点滅する携帯電話。
会いたかったあの
白い腕が、
呼んでいる。

グラスを揺らすと楽園が見える。
きっとあの腕も、
同じ月を見ているだろう。


自由詩 同じ月 Copyright あおい満月 2015-07-23 23:32:41
notebook Home 戻る