日常
ららばい

隣に寝ている祖母の髪をいじるのが
幼い私が眠りにつくための儀式だった
人差し指で祖母のぱさついた白髪交じりの髪を
くるくる巻き取る
眠る寸前までやっているものだから
翌朝の祖母の髪は縮れて
櫛を入れるのが大変だった
汗と線香と土のやわらかいにおい


無口で酒飲みな父は
時々思い出したように私を
近所のラーメン屋に連れて行った
早足の父に私はいつも置いてきぼりだった
父の後姿が小さくならないように
私は俯きながらせっせと歩いた
父は子どもという存在が苦手だったのだろう
ふと後ろを振り返る父のどこか困ったような目が
私を捉えずに宙を彷徨っていたのを覚えている


祖母が死んだ時
母はさめざめと泣いた
受話器を持った左手をだらんと垂らし
私の存在など忘れてしまったかのように
わんわんと泣き続けるものだから
私は6畳の部屋をぐるぐる歩いた
泣かないで泣かないで泣かないで
母の嗚咽はレコードのように止まらず
私はいつまでも歩き続けた


大人になったらこの胸のもごもごした感じは
なくなるのだろうと思っていたが
大人になった私は相変わらず
―いや更に必死に
何かをごまかしながら歩いている




自由詩 日常 Copyright ららばい 2015-07-19 01:36:26
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