巻き戻されることはない
ただのみきや

霧が湧き 雲は下り
天と地の息吹が交わり合う
噛み合わされた大地 喃語の潤い

ぱせり ぶろっこり やまのみどり

熊や鹿が嗅ぐ土の匂いが知らしめる
地脈の辿り 遠く 深く 息みて

何処かで ぱっくりと 開く
熟れた 地球の 胆汁
熱い 硫黄の 匂い

煮え滾る炉の上に
暮らしている 人は
原子の炉を立てて

小さな火の恩恵を
囲んで聞いていた かつて
とり巻く闇に蠢く声を
天地の睦みと陣痛を
祖母や曾祖母の昔語りと共に

今はニュースを聞いている

夢見た暮らしを手にしたか
あれこれ貢いで散財し
夜は煌々 心は闇のまま
継がれた記憶も枯れ果てて 
言の葉に芽吹くこともない
名無しの空虚が
膝を抱えて座っている

巻き戻されることはない

だが過去に対して大人ぶっても
いつでも「今」幼子だ
欲しいと駄々捏ね 嫌々泣いて
満足したか 泣き疲れたか
眠りの乳房の夢を吸う



       《巻き戻されることはない:2015年7月4日》







自由詩 巻き戻されることはない Copyright ただのみきや 2015-07-15 18:08:07
notebook Home 戻る