長椅子
……とある蛙

溯れない川の流れに似た
時間に浸りながら
自分の座る椅子を捜し回っていた
私の片割れの具象化した腫瘍は
いつまで経っても不定形の
気味の悪い生物で
恐ろしい程脆い
その割りにはしぶとく
いつまで経っても割り切れない

警察署玄関の長椅子の隅
少し浅く姿勢を正して
端座する初老の男は
一点を凝視する。
視線の先は
庁舎内案内のプレートなのだが
彼の網膜には
幼いころの青の映像が映る
黙っている 黙っている
何回も何回も砂山を作る
青の映像

セピア色の自分は走り回っている
その映像は青に染まる。
砂山を作る青に向かって
走り回る自分は
砂山を蹴飛ばし潰し
さらに踏み付け
青は泣き出す
青の映像の上縁から
流れ出す透明な後悔

初老の男は呟く
「流した涙の量だけ
笑顔があるさ」
嘘だ

青の映像はエンディングまで
程遠いセピア色の自分は
青の砂場に付き合って走り回る
走り回る走り回る
走り回る自分は
砂山を蹴飛ばし潰し
さらに踏み付け
青は泣き出す
青の映像の上縁から
流れ出す透明な後悔

そして、不定形な腫瘍は
片割れを飲み込んだ


自由詩 長椅子 Copyright ……とある蛙 2015-07-14 15:23:45
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