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イシダユーリ


あなたの
あたまに
はなを
くっつけて
夏が
来た と
くちを
うごかす

あなたの
あたまに
くちを
くっつけて
かわいそう

くちを うごかす

かわいそうなのは
わたしなのか
あなたなのか
とおくにいる
おばあちゃんなのか
そのことについて
かんがえるとき
いつも
ねむくなってしまう
ねむいのは
わたしなのか
あなたなのか

たくさんの人が死んだし
どうということもない
たくさんの人が生まれて
どうということもない
けれど
どうということもない
ことに
こうべをたれて
鞭をのみこみ
そうか
もういちど
汚れていると
感じる
内側へ
シーツに
額をこすりつけて
濡らす

強い物語がほしい
とわたしはいつも思っている
あなたには
まだ物語がないので
わたしは必死に
あなたの輪郭をなぞる
強い物語がほしい
と骨を叩いていると
名前がこぼれてきて
しらない名前だ
わたしの血につながらない
無地の名前
わたしの血の捩れは
みどりいろだと
言うと
あなたは風を見た
いいえ
それはゆらされるタオルです


ばらばらになってしまっている
わたしの
血も
骨も
文字も
あなたは
かたまりで
輪郭もないのに
まとまっていて
かわいそう
ばらばらに
なって
いまここにいないことに
してしまう
わたしの
汗のしみ
あなたは
それをなんどもなでる
わたしは
かわいそうと
いう

かわいそうなのは
わたしなのか
あなたなのか
とおくにいる
おばあちゃんなのか
まいにち
もう寝なければ
もう起きなければ
食べなければ
行かなければ
かわいそうなのは
きょうそうを
している


金属や材木が
風や雨にさらされ
からだのような
かたちのものに
なる予定だったと
言っている
強い物語になれなかったね
どうということもない
あなたが
朝息絶えていても
わたしは
朝ごはんを
食べるしかない
あなたの
頭に
鼻を
あてて
いつも
想像していた

口を
うごかす




自由詩 ボタン Copyright イシダユーリ 2015-07-14 10:59:48
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