聞こえない歌 見えないダンス
塔野夏子
私は歌う 聞こえない歌を
私は踊る 見えないダンスを
爛れた雨の降りしきる中を
ぎらぎらとひらめく旗たちの下を
言葉の礫たちの飛び交う中を
私は歌う
私は踊る
幾重もの傷が重なる記憶の時空を
震える小鳥たちの羽搏きのかそけさを
私は歌う
私は踊る
垂れ流される濁った影に怯えながら
捩れた企てがもたげる鎌首に戦慄しながら
枯れた空に虚しく聳える阿房宮を嘆きながら
私は歌う
私は踊る
けれど立ちのぼる祈りたちの静けさとともに
私は歌う
私は踊る
存在の始源に刻まれた不思議な刻印が
響かせる調べのままに
私は歌う 自分にも聞こえない歌を
私は踊る 自分にも見えないダンスを