夢虫
やまうちあつし
虫は岩場にとまって夢を見ていた
夢の中では全く別のいきものだった
そのいきものは
仕事をし
妻をめとり
子どもをもうけ
家を建て
また恋をして
時には浮かれ
時にはもだえ
ケータイをいじったり
車をとばしたり
ラーメンを食べたり
旅行に出かけたり
そして戦争が起こった
殺し合うのは
反対であったけれども
やり方がわからなかった
街が焦げ空が焦げ命が焦げた
鼠の心で鬼の形相
戻ってきたときは空き瓶になっていた
やがて体を壊し
病に伏せる
そして自分の
生涯を振り返り
静かに目をとじる
その時
虫は目を覚ます
瑠璃色の羽を揺らして
夕焼け空に飛んでゆく
虫の寿命は三日間
そのうちの大半を
このように夢を見て過ごす
だから虫には
自分が誰だかわからない