小さな 五つの詩篇
山人


罪深い朝よ
おまえはそんなにはりきってどこへ行くというのか
時空を超えて宇宙の滝まで行くというのか
俺を待ってはくれないだろうが
朝よ、おまえは嫌いじゃない

おまえが夜に吐き散らかした叫びが
結露してまばゆく光っている
おまえにも夜があり
泣き崩れた時があったのだろう
でも、朝よ
おまえは暗さを剥ぎとって透明な色を手に入れたのだな
朝よ、おまえが光ると人が喜ぶ
おまえが産んだ卵が孵る時だ
朝だ朝だよ
太陽をつかまえてこいよ






種よ
虫に食われた かんらからに乾いた親などの
真似をするんじゃないぞ
お前は一個の種として生きてゆけ
カラスに食われたのなら
黙って硬くなって糞から根を張れ
太陽の光が遠かったら、黙って眠っていろ
お前は種だ
やがてお前の時代が来る
でも種よ
万が一
腐れ掛かったら
俺の枯れた葉っぱの影で
ひとしきり皮膚を乾かせ
それまで俺は
からからに乾ききった体で
突っ立っているよ





座椅子に座り
スコッチのロックを飲る
僕は巨人になって
そこらへんの杉の木を二本折り
小枝を歯磨きして削ぎ落とし
流星をひとつつかまえて
グラスに入れる
星のカタチした流星
グラスの中で
かちりかちりと泳いでいる
満月のクレーターに顔を近づけると
酒臭いぞと雲に隠れた
宇宙の外側に顔を出すと
またそこは宇宙だった
果てしないんだなぁ
宇宙って
僕はそう言って
息を吐き出すと
きらきらと
流星雲となって
空へ伸びていった






午後の重みに しなだれた校舎から
飛び出したキャンディのようにチャイムが鳴る
太陽は後ろ向きになり
角ばった校舎は
ためいきとともに丸くなる

砂山が崩れると
ハンドスコップがことりと倒れ
ひかりは赤く染まり
川となって
町を流れてゆく





老人がベンチシートに並んでいるのだ
昔はたぶん女だった
男だった
今は老人だ
人生なんて そんなもの
皺皺に閉じ込めて
ホッチキスでとめている
そんなもんがあったんかい
それでも老人
剣を持ち
戦車を引き
戦いを挑んでいる
この世で一番相手にされないのに
それを苦にするでもなく
悟りきった戦士のように
今日も
乾いた脳で思考し
味の無い舌でまくし立てる
皺皺の老人
殺されても生きろ
燃やされる前に何か叫べ!
目の前の医者に噛みつけ!


自由詩 小さな 五つの詩篇 Copyright 山人 2015-07-09 19:52:16
notebook Home