変身したい
智鶴

嘘ばかりで安っぽいお伽噺じゃないのにね
雨音が小舟を脅かす夜に
嵐の中、揺れる吐息
生きている
自分も世界も欺いて
生きている?

誰かがドアを叩いている
此処が何処だか分からない魂だろうか
眠りそびれた少女の命だろうか
それとも
僕に気付いてほしい嘘だろうか

僕は僕じゃなくなりたいのに
私は僕じゃなくなりたいのに
こんな嵐の夜には
蝋燭が消えるまでに
世界も変えられるかも知れない
のに
一秒先の運命も分からない

浅はかな体がまた夜を妨げ始める
それが全ての始まりの合図
歪めば歪むほど美しい
嘘みたいな裏側の歌声が
嘘の世界に火を付ける

僕はもう死んで
何処にも行けない哀しい魂に変わって消えてしまった
僕だったことなんか綺麗に忘れて
怪物のように生まれ変わってしまった
夢の様にはいかないね
誰かが遠くで呟いた気がした

胸に空いた感情の痕が
今さら疼いて忘れられなくなった
失った心臓に張り付いて
僕は未練がましく未だ燻っている

戯れに息を吐き出してみたら
誰かが叫んだ言葉まで掻き消してしまった
ごめんね、ただ
さみしいの
誰かに見つけて貰えるように
生まれ変わりたかっただけなのに


自由詩 変身したい Copyright 智鶴 2015-07-08 23:28:06
notebook Home