腹ペコ魚
日々野いずる

おなかはへっても
あ、たべるものがなかった
ひんやりした空気を送り出す冷蔵庫はからっぽで諦めてバタンとしめる
水道をひねって水を出した
水を飲んで
水の甘さ苦さをよくよく知った

水ばかり飲んだものだからきっと水になれる
指先から水になってパシャンとシンクに体が落ちる
このままするっと排水口に吸い込まれ
そのままずーとパイプを通って
川へ出たなら魚と共に海へ向かい
そして
海で大きなくじらを見る

くじらのまわりをうようよしていた
急な冷たい流れが上から覆いかぶさってきて海の底へ連れて行かれた
次に日を見るのはあと百年後だろう
光が少なくなって冷たくなって
暗闇だ

でも冷たい水の底にずっといて
あたたかい日を夢見ながらじっとしてるのも
部屋の温かい布団の中でじっとしているのも
変わりない
帰りたくないなと息がもれ
泡は天井に上がっていった


自由詩 腹ペコ魚 Copyright 日々野いずる 2015-07-08 10:37:38
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