包み込む手のひらから
深水遊脚

つるりと逃げ出す言葉は
重心を同じところに留めようとする
こちらの思惑を知っていて
その裏をかくイタズラを仕掛ける
追いかけるとき進む道は
こちらが選んでいるようで
あちらの作戦通りのポイントに誘いこまれる
逃げ出すとき振り向いて
ずいぶん遠く離れたつもりだったのに
走り疲れて休んでいる隣に
ふと現れたりする
私をよく知っていて
私を軽くからかったりはするけれど
私が本気で怒ること
許せないと感じるポイントは
なんとなく知っているようで
それをまともに訴えれば
決まってつまらなそうな顔をする
あるいは悲しいのかもしれない
そんなこと今更知らない訳はないでしょう
とでも言いたげな目をするのだ

真剣になりすぎて
誰にも会いたくないとき
憎悪を憎悪のまま書き出してみると
それをそのまま目に見える形で示してくれる
鏡のなかの自分が自分でないと
言い張るようなときはとうに過ぎ去って
私も私の吐き出したものをじっと見つめる
それでもあまり重ねるつもりはないだろうと
理解してかしないでか
つるりと消えては現れて
別の何かを私に気づけと促す
正しさは嫌いだけれど
私の正義感の主張につい付き合わせてしまう
文句を言ってもいいのに何も言わない
もうあなたで最後だったかもしれない
こんなに忍耐強く待ってくれる存在は

我慢は美徳ではない
働きすぎの織女と牽牛は
逢うときの戯れのために一年を過ごしてもいいのだ
美しい織物の完成に尽くさずとも
国の食糧生産にそう責任を感じなくても
よい仕事を誇りにするのも大事なことだし
皆がそれを求めているから迂闊なことはいえないけれど
最近つらそうで見ていられない

あなたもこのところイタズラを仕掛けてこない
私が張り詰めてばかりいるからなのか
対等ではない関係をことのほか嫌うあなたが
私のなかに屈服させようとする意思を感じ取ったのか
一人での思考は
ユニットバスで生活のすべてを営むのにも似て
その外を知ろうという意思が徐々に薄れて行く
汚れていても気にならなくなる
どんな言葉も拒絶しないで
一番いいかたちで吐き出せるように
あなたと逢うときまでにそうなりたい
二人とも我慢しない状態で
また遊びたい


自由詩 包み込む手のひらから Copyright 深水遊脚 2015-07-07 20:54:28
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