詩歌集「うずく、まる」より自選十五首
夏嶋 真子


何もない一日 雲を泡立てて貝殻模様のカップを洗う


花の雨 眠るわたしのこめかみにふれているのはくちびるですか


モノクロのアネモネきっとあなたならうすむらさきを選んで写した


はるじおん はるじおん はるじおんの字は咲き乱れ、銃声がなる


なぜだろう無意味なものほど愛しくて座席をひとつ移る夕暮れ 


うずく、まるわたしはあらゆるまるになる月のひかりの信号機前


みもざ、みもざ 歌ってほしい耳もとで雨粒よりも小さな声で


はじまりとおわりはわたしが決めること檸檬は荷から床にころがる


君までのきょりわるじかん、それははやさ。ひかりの帯となりゆく列車


Metallic lyric脚を君のためきっかり二時の角度にひらく


いもうとが息をはくたび粉雪は少し遠くへゆきさきかえる


むこうから誰かが歩いてきたけれどいないみたいにすれちがうこと


初めての眼鏡をかける夕暮れの明朝体のはらいの細り


いつまでも生えてこなくて憧れるエジャキュレーション 銀河のような


デネブ発アルビレオ行 ポケットの胡桃で二枚切符を買った



書肆侃侃房新鋭短歌シリーズ23「うずく、まる」より  


短歌 詩歌集「うずく、まる」より自選十五首 Copyright 夏嶋 真子 2015-07-04 13:25:47
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