さかさ
あおい満月


雨をください
誰かが言う。
血をください
私が言う。
すると、
突然鼻の奥がむず痒くなってきて
鼻から茶色やピンクや緑色にまみれた汚物が出てくる。
汚物のなかに、
モザイクになった
知人たちの顔、顔、顔がある、
そのなかには笑顔もあって、
処理したい私は
一抹の淋しさをかみしめる。



近頃巷では、
ミルフィーユになったサラダが流行っているらしい。
黄色や赤や紫やオレンジや白を重ねた
カラフルサラダ。
わたしはそれを、
一斉にフォークでかき混ぜて、
咀嚼するOLたちのキラキラした前歯を見る。
昔、
油でベトベトになった
コロッケが入った社内弁当を
ほじくり返して鬱憤を混ぜ込んでいた
先輩たちを思い出して。

**

(逆さにしてください、美味しいですよ)

キャッチフレーズになっている、
缶チューハイを飲もうと、
100円で特売ということで、
買い物カゴに入れていく。
私はいつも、
逆さにすることを忘れて飲んでしまう。

(近頃、逆さが流行っているな)

ぽつり呟く。
セオリーからパラドックスに
変えられる刺激を感じると、
目からも耳からも
舌の気孔からも
ことばがあふれてくる。
そのことばを
自分に向ける。
自分のなかの、
隠れている黒い手足に向けるために。

***
熱情が刃に変わる。
その瞬間を、
黒いノートパソコンの向こうの目と手は、
確実に捉えている。
メビウスの環を、
築かれてきたものを
線香の灯りぐらいしかない熱によって
壊されることが何よりも怖いのだ。
私はいつも、
カッターナイフを握っている。
相手の手にも、
メスが握られている。
カッターを放させようとする見えないメス。
私はカッターを雑踏のなかに捨てる。
切りつけた相手のメスが、
星に変わる瞬間を焼きつけながら。

****

プラネタリウムで
逆立ちで星を視ている。
真下にある宇宙には
さかなになった私が映る。

(そこは水面じゃない、床だよ。)

呼んだ誰かの腕にはタトゥーの蛇が
赤く尾を噛み合っている。




自由詩 さかさ Copyright あおい満月 2015-07-01 21:19:00
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