真夏の記憶
レタス


鳴いた空はとても紅かった
ぼくは入道雲を追いかけて
夕暮れを防ごうとした
追いかけても届かない哀しみは夏の色
ごうごうと空が鳴ったのは幻だったのだろうか
紅色の空はあまりにも鮮烈で
ぼくの網膜に残っている

公園のベンチに座った男に
甘い 甘い梨をもらった
どうしてか男には首が無かった
気持ちが悪いと思ったけれど
もらった梨はとても甘かった

灰色の作業衣をまとったあの男は
八百屋の親爺が南京で首を斬った
三人のうちのひとりの男の亡霊だったのだろうか
写真を見せられたぼくは慄き
八百屋の親爺はキチガイではないかと思った

甘い梨をくれたやさしい男


自由詩 真夏の記憶 Copyright レタス 2015-06-30 23:52:41
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