感電
A-VOW
キリストよ、早く降りてこい!危ないぞ!”
と教会の屋根の先端で十字架に張り付いたままのキリストの自殺行為を一応止めたのは禿げ頭の吟遊詩人である。
彼は文字通りあの神の国、或いはこどもの国に禿げ頭になり憑りついたのだ。
奇妙な鼻水から発展した芸術も結構、
夕食を彩る屍骸も結構、
深夜02:12の精液による呪縛も結構。
夜は腫れてんだから。はち切れんばかりの曇った夢を頬張れ。さあさあ騒ぎが。
結託だ。そして憑りついてやる!
今まさにあらゆる価値に対する決定的な告訴がこの地下の奥深くで産声をあげたのだ!
歴史、慣習、道徳、倫理、社会、国家、家庭、労働、宗教
これらの甘い蜜の香りに誘われて、そのビンの底に大量の人間が沈んでいる。
無と呼ばれるものだけが我々の心臓に火を灯すだけの熱を有し、我々の生命を燃やし尽くしていく。
我々に力があるとすれば、それはこの上ない無力さであり、
我々に才能があるとすれば、それは偉大なる無能さである。
いつだって人は身の回りの無を全て埋め立てようとそれに精を出す。
複製を繰り返し重ねて、すっかり色彩もくすみ輪郭もぼやけた生によって、
或いは生産量を増やすために安価な材料と手抜きの工程によって作られた生によって、
我々の愛すべき無は瞬く間に埋め尽くされてゆく。
無意味、無価値、無意識、無理解、無秩序、無邪気、無国籍、無差別
無慈悲、無分別、無神論、無尽蔵、無条件、無計画、無造作、無気力
無自覚、無関心、無許可、無責任、無頓着、無鉄砲、無表情、無感動
ありとあらゆる無がこの誓いの中に圧縮され最高度の熱を帯びる。
そしてこの超高濃度の無より発せられる熱があらゆるものを溶かし尽くしてはまた飲み込んでゆく。
我々は常に昨日とは無縁である。
我々はあらゆる党派とは無縁である。
我々はいかなる諸学とも無縁である。
我々はもはや人類とは無縁である。
無とはすべての始まりである。
さあ、人生の路に出たまえ。