オパール
佐々宝砂
屋上に登るとそこが彼の家で
夜空は曇りがちだったけれど
さそり座の鈎がどすぐろい雲間から覗いたので
東西南北は把握できた。
方角がわかっていると気分がいい。
屋上の端には手すりも柵もなくて
落ちる落ちると思ったら
足の下にコバルトの風が吹き抜けていた。
ビールと
コンビニかどこかで買ってきた寿司と
ポテトチップと
温めたパスタ。
もうすぐ認識できなくなるだろうけれど
こんな高脂肪食が今夜はおいしい。
遺書なんか書かないで
突然に消えよう。
彼の掌に湿気て白く曇ってゆく
喪われてゆく遊色
いまのうちに意味ある色彩を目に焼き付けようとして
耳を澄ませている夜はどんどん深くなる。