オパール
佐々宝砂

屋上に登るとそこが彼の家で
夜空は曇りがちだったけれど
さそり座の鈎がどすぐろい雲間から覗いたので
東西南北は把握できた。

方角がわかっていると気分がいい。

屋上の端には手すりも柵もなくて
落ちる落ちると思ったら
足の下にコバルトの風が吹き抜けていた。

ビールと
コンビニかどこかで買ってきた寿司と
ポテトチップと
温めたパスタ。

もうすぐ認識できなくなるだろうけれど
こんな高脂肪食が今夜はおいしい。

遺書なんか書かないで
突然に消えよう。

彼の掌に湿気て白く曇ってゆく
喪われてゆく遊色
いまのうちに意味ある色彩を目に焼き付けようとして
耳を澄ませている夜はどんどん深くなる。


自由詩 オパール Copyright 佐々宝砂 2005-02-11 03:35:12
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