マンホール
あおい満月

かみつくことをくりかえす。
これがわたしの心の生き。
噛み砕くものが増えるたびに、
ささくれだつ感情は
上昇する海水になって目の前を超える。

(怖いのか)

己に問いただす。

(まだまだ、まだまだもっと上がれ、もっともっと!)

下水で浮き上がったマンホールを
強く押さえる。
薄い夕暮れの空に
鳴り響くメトロノーム。
吐き出す吐息と一緒に
何かがしみだして
階段を下る
床が階段になる。



ハンドルを急いで回す。
遠心力に逆らいながらも
水は上へ上へと昇ってくる。
身体の熱と水の熱が等しくなれば、
ガラス越しの鏡に火が映る。
何かがはじまる。
壊れた時計が動き出す。

**

メトロノームは
もう聴こえない。
鳥が飛び立つ。
超高速エレベーターで下界に降りる。
どこかで見た夕方のビル街を背に
真っ直ぐに磁石の呼ぶ方に足を向ける。
水をなくして
口をあけたマンホールが
錆びた目で行き交う人々を見つめている。

ポストに群がる鳩の一羽が
餌を与える子供の
小さなサクラガイを狙っている。




自由詩 マンホール Copyright あおい満月 2015-06-24 20:58:12
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