マンホール
あおい満月
かみつくことをくりかえす。
これがわたしの心の生き。
噛み砕くものが増えるたびに、
ささくれだつ感情は
上昇する海水になって目の前を超える。
(怖いのか)
己に問いただす。
(まだまだ、まだまだもっと上がれ、もっともっと!)
下水で浮き上がったマンホールを
強く押さえる。
薄い夕暮れの空に
鳴り響くメトロノーム。
吐き出す吐息と一緒に
何かがしみだして
階段を下る
床が階段になる。
*
ハンドルを急いで回す。
遠心力に逆らいながらも
水は上へ上へと昇ってくる。
身体の熱と水の熱が等しくなれば、
ガラス越しの鏡に火が映る。
何かがはじまる。
壊れた時計が動き出す。
**
メトロノームは
もう聴こえない。
鳥が飛び立つ。
超高速エレベーターで下界に降りる。
どこかで見た夕方のビル街を背に
真っ直ぐに磁石の呼ぶ方に足を向ける。
水をなくして
口をあけたマンホールが
錆びた目で行き交う人々を見つめている。
ポストに群がる鳩の一羽が
餌を与える子供の
小さなサクラガイを狙っている。