伴侶
由木名緒美

もう二度と出逢えない
雪のように溶けゆく理想達
狂想の瞳孔に映るのは
忘却の綿埃に覆われた部屋の明かり
そこに確かにあった愛を指でなぞり
世界が終わるまで決して連れ出さない
薄っぺらな紙に永遠をまかせて
あらゆる事象を封じ込めるのだ

光りを求め 時間を遡行し
そこにある筈の原風景は
滑落した記憶の荒れた墓地で
息を吹き返す白い腕は
産まれたばかりの幸福を
いとも簡単に引きずり降ろしてしまう

喉の渇き 真理の飢え
椀を満たす時間は透明度を増し
楔がなければ護ることも出来なかった
命名はこの腕に現世の血脈を刻みつける



凪いだ海で船を待つ
いつか真っ白な海鳥が運んできてくれたあなたの近況は
あの夜から届けられたとは思えないような朗報で
私は穏やかな波と一体化してしまう
ここで休息を赦されるなら
誰が空に替って雨粒の殴打を送りつけるのだろう

決意と逃避 恵みと搾取が
曼荼羅の中心に向い集約していく
穢れたのなら白を捨てればいい
精神の純白は瞼を伏せなければ訪れない

すべての場面が柱となり建ち上がる
命の劇場で喝采はあなただけ
すべからく演者は己一人で

だから私達は導き合うのだろう
感受性の断崖へ
愛の偏在を迎える朝は
独りきりでは臨めないのだから


自由詩 伴侶 Copyright 由木名緒美 2015-06-24 01:06:41
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