伴侶
由木名緒美
もう二度と出逢えない
雪のように溶けゆく理想達
狂想の瞳孔に映るのは
忘却の綿埃に覆われた部屋の明かり
そこに確かにあった愛を指でなぞり
世界が終わるまで決して連れ出さない
薄っぺらな紙に永遠をまかせて
あらゆる事象を封じ込めるのだ
光りを求め 時間を遡行し
そこにある筈の原風景は
滑落した記憶の荒れた墓地で
息を吹き返す白い腕は
産まれたばかりの幸福を
いとも簡単に引きずり降ろしてしまう
喉の渇き 真理の飢え
椀を満たす時間は透明度を増し
楔がなければ護ることも出来なかった
命名はこの腕に現世の血脈を刻みつける
*
凪いだ海で船を待つ
いつか真っ白な海鳥が運んできてくれたあなたの近況は
あの夜から届けられたとは思えないような朗報で
私は穏やかな波と一体化してしまう
ここで休息を赦されるなら
誰が空に替って雨粒の殴打を送りつけるのだろう
決意と逃避 恵みと搾取が
曼荼羅の中心に向い集約していく
穢れたのなら白を捨てればいい
精神の純白は瞼を伏せなければ訪れない
すべての場面が柱となり建ち上がる
命の劇場で喝采はあなただけ
すべからく演者は己一人で
だから私達は導き合うのだろう
感受性の断崖へ
愛の偏在を迎える朝は
独りきりでは臨めないのだから