動かない家電のスケッチ
中川達矢
今は動かない家電が動いていた頃、きみは子どもだった
今は子どもじゃないきみが子どもだった頃、きみは子どもだった
いらなくなったものは捨てたはずだけど
引き出しにとっておいたおもちゃは今でも必要なのだろうか
からだに付着していた血潮は拭き取ったはずでもその中で新たに生成される
生まれたばかりの子どもの将来を考えているきみの横で
ぼくは死ぬ間際の老人の将来を考えている
そう、今は動かなくなった家電の行き場を考えている
他人様の動かなくなった家電
ぼくはごみ処理場で働いているわけではないのに
「はい、そうですねえ、はい、はい、はい、あっ、いやいや、そうではなくてですねえ」
(どうして人は同じ事を繰り返し述べるのだろう
きっとぼくもそう思われているのか)
生前の行いが死後を導いていく様子をノートに描く
そのスケッチは無造作に溜められ、引き出しに収められる
ぼくは誰かが残していったスケッチを眺めてはその続きを描く
きみが相手にしてきた子どもはくれぐれもこの引き出しで眠らないように
スケッチ3:
天井からぶら下がる植木鉢
ダイニングで眠るキャラメルコーン
白く塗られたベッド
壊れた風呂場
階段に置かれた創世記の抜粋
バナナ
自称動かない家電
(くやしい
(とにかく、くやしい
(歩けないことが、くやしい
材料がなくなってスケッチを止め、引き出しにしまう
隣から聞こえるきみの笑い声を背中に
ぼくは生まれた家に帰っていく