六月
乱太郎

五感に塩漬けされた記憶の味が
酸っぱくなってゆくようだ
母は既に亡くなり
カビの生えた世間知らずの正義と理想を
空は紐で繋いで晒し者にする

生温い風に扇がれて
都会のビルの間で尾鰭を振っているこの月を
昔の僕なら鬱陶しく感じていただろう

泥船の底が地面に擦り減らされ
嘘の湿度が最高になる
気怠い愛想と夕暮れの雲

溶けたい

溶けることができたなら

記憶を消すことも赦されず
この月はいよいよ僕を捉え運んでゆく
出口のない、入り口も見えなくなった
今では愛おしさすら感じられる
青緑色の迷宮へと

溶けたい

溶けることができたなら

やまない衝動は高鳴り
ついに確かな手応えとともに
僕の最後の理性を
僕は自ら絶とうとしている

溶けて
ゆく

のを感じはじめた
記憶はもはや抵抗をしていない
空が紐で繋いだ

のにおいがまるで海原の潮風のように
僕を包み僕を抱き僕を抱え

帰ってゆくようだ

そうだ

帰ってゆくのだ
僕は既にいなかったのだ
ここには

やっと気がつくことができて安堵すると
僕の手にはシャベル
この、六月に僕は自分のための墓を掘りはじめた


自由詩 六月 Copyright 乱太郎 2015-06-22 23:08:22
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