六月
乱太郎
五感に塩漬けされた記憶の味が
酸っぱくなってゆくようだ
母は既に亡くなり
カビの生えた世間知らずの正義と理想を
空は紐で繋いで晒し者にする
生温い風に扇がれて
都会のビルの間で尾鰭を振っているこの月を
昔の僕なら鬱陶しく感じていただろう
泥船の底が地面に擦り減らされ
嘘の湿度が最高になる
気怠い愛想と夕暮れの雲
溶けたい
溶けることができたなら
記憶を消すことも赦されず
この月はいよいよ僕を捉え運んでゆく
出口のない、入り口も見えなくなった
今では愛おしさすら感じられる
青緑色の迷宮へと
溶けたい
溶けることができたなら
やまない衝動は高鳴り
ついに確かな手応えとともに
僕の最後の理性を
僕は自ら絶とうとしている
溶けて
ゆく
のを感じはじめた
記憶はもはや抵抗をしていない
空が紐で繋いだ
死
のにおいがまるで海原の潮風のように
僕を包み僕を抱き僕を抱え
帰ってゆくようだ
そうだ
帰ってゆくのだ
僕は既にいなかったのだ
ここには
やっと気がつくことができて安堵すると
僕の手にはシャベル
この、六月に僕は自分のための墓を掘りはじめた