150616
省略して説明されたから
根本原理は皆目わからず
ただ、製法が分かっただけ
説明どおりにすれば
それなりのものが出来た
競争相手も同じものを作り
価格競争を仕掛けてくる
規模の小さいわれわれは
いつまで、耐えられるか
材料の仕入れ原価からして
割高なのだから
元々、利益が少ない
競争に負けるのは必然的だ
社長は、ノウハウを聞いてきた
われわれを知恵の足りない連中だと
苦虫を潰したような顔でいう
かといって、打開する方法も無く
商売換えでもしようか
それとも、もう一度銀行を説得して
製造設備を改善して、無駄を無くし
儚い抵抗をしようか、迷っているようだ
根本原理を気にせずに製品を作ったわれわれは
なんと言うばか者と思うけど
今から、根本原理を学ぶ時間も頭も無い
できることならば、優秀な若い技術者を雇い
根本原理から理解させて、コペルニクス的転回を
図ってもらいたいものと思うのだけど
わが社には、理論に秀でた優秀な若い技術者など、入社するわけが無い、年老いた学者を顧問に来てもらうのが精々で、新しい技術にはなかなか対応できないのが現実です。それを良く分かっている社長は
日に日に食欲が失せ、痩せて貧弱な顔つきになってしまった
これで、もうおしまいかなと、誰もが、諦めかけた時に
某国の債務破綻で、世界的な株価低下、恐慌の恐れさえ感じられ、生産規模の大きな競争相手は、需要低下で操業率を落とすしかなく、人件費負担に耐えられなくなり、その上に、気の緩んだスタッフの考案した新製品が、まったく売れず、株価は低迷するばかりで、経営陣は、株主からの攻撃に耐えられず、この分野から撤退を決め、工場設備、工場敷地も売却して経営のスリム化を決定、リストラ策も断行し単年度利益率をなんとか黒字にしようと図る。
元々たいして需要の大きくない分野に参入したのがいけないのだと経済評論家もスリム化を評価したので、株主たちもなんとか納得したようだ。
わが社は、競争相手の撤退で供給が減ったこともあり、自転車操業ながら、今日もなんとか操業している。社長の顔はまだ痩せたままだけど、そのうちまた自信を取り戻し、運も実力のうちとか自慢することであろう。待望の、理論に優れた優秀な技術者の入社の見込みは無いから、各自が、経験の積み重ねで、製品の品質向上を図るしか現在は手段が無い。抜本的改良の手段は、基礎的理論の理解無しには不可能だから、定年退職した理論に強い技術者を顧問に雇い、意欲的な連中に基礎から学ばしたらどうかと、会議で発案したが、自転車操業にも慣れて、スリルを快感にも感じるようになった社長や部長は、そんな予算どこにあるのか、何年で目的達成できるか、そもそも、来てもらう人物に当てがあるのか、鋭い質問を投げかける。ボランティアできてくれる物好きな人物でも探そうかと夢想する会議の後の虚無的な時間はあっという間に過ぎた。遅刻常習犯の自分は、なにかあったら、勤務態度が生ぬるいと真っ先に、リストラされそうな気もして、慌てて電気を消し、今現在、眠ろうと努力している。
初出「即興ゴルコンダ(仮)」
http://golconda.bbs.fc2.com/
タイトルは、阿ト理恵さん。