夜は 歩く
木立 悟






夜はうなずく
耳を覆うものは無い
まぶたはうなずく
無音を示す
標にうなずく


紙を捻る
底は深い
骨は痛む
轢かれかけた
指は痛む


白く小さなスフィンクスが
川に降る雨を見ている
水辺につづく樹
わずかに現われ
消えてゆく午後


夜はひとりの夜を歩く
水の底の紙をまたぐ
散る光を取り
径の行方の傍らを照らす


目を閉じても
まぶしい灰
手のひらの上の園
聞こえない波とざわめき


ふところに羽と刃を抱き
丘の傾きにこぼしゆく
光は水に
夜は夜に落ちてゆく


径の遠い端の方から
少しずつ川になってゆく
かつて自身が
別のものであったことを
忘れながら夜は歩く



























自由詩 夜は 歩く Copyright 木立 悟 2015-06-15 02:39:02
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