片付けたっておもちゃ箱の中はグチャグチャ ― ホロウ・シカエルボク × 烏合路上 ある日の対談 ―
ホロウ・シカエルボク
六月某日、高知市内某所…
ホロウ・シカエルボクはすでに席についていた。約束の時間を少し過ぎてやってくる烏合路上。
烏合「やあ。」ホロウ「久しぶり」
烏合「まともに会うのは初めてかもね。」ホロウ「そうだね。」烏合「もともと僕は散文担当だったから。」
ホロウ「まずは、某賞三次落選、おめでとう。」烏合「うるせーよ(笑)」
ホロウ「そもそも、なんでラノベの賞なんかに応募したの?」
烏合「なんでもいい、って書いてあったからだよ。」ホロウ「(笑)」
烏合「まあね、評価自体はよかったから、結果には満足してる。」
ホロウ「なんて書いてあったの?」
烏合「筆力もあるし、ストーリーもいい。でもラノベじゃない。みたいな。やっぱり読者的にはなんでもありが限られるみたい。」
ホロウ「なんでもありが限られるんだ。」烏合「そう。」
烏合「面白かったのは、地の文が長く続く作品は敬遠される傾向にありますって書いてたこと。ああ、本当に出すとこ間違えたんだなって。」
ホロウ「ラノベ賞にハードボイルドみたいの送って通るわけないよなww」
烏合「今年はきみの名前を使ったみたいだよ。」ホロウ「マジで?」烏合「マジでマジで。」
烏合「一応客層とか意識して送ったみたい。」ホロウ「そうなのか…。」
烏合「なんか急にやる気だよね、カレ。」ホロウ「やっぱりねえ、現状が気に入ってないんだろうねえ。」
烏合「だって、なんでも言えるじゃん、っていう例のヤツ。」ホロウ「そうそう(笑)」
烏合「逃げのピュアネスを異常なほど嫌ってるからね。」ホロウ「毅然と言い訳してるようなもん、ってね。」
烏合「そういえば、映画どうなったの?」ホロウ「全体に機材がボロくてね…。整えてから再開って感じ。」
烏合「そうなんだ。結構撮ったんでしょ?」ホロウ「うん、でも音声の関係で撮りなおすことになりそうだね。」
烏合「撮ってみてどうだった。」
ホロウ「そうね、出来てないのに話すのもなんだけど…(笑)小説よりは映画のほうが詩に近い、と思ったね。」
烏合「てぇと?」
ホロウ「イメージの羅列で出来たいくつかの小さな流れを繋げて、大きなひとつの流れを作るわけよ。」
烏合「ああ。」
ホロウ「まあ、そこへいたるまでの面倒臭さは、詩の比ではないけどね(笑)でもね、手がかかる分ポエジーとしては詩よりもダイレクトな部分がある。」
烏合「でも、映像で表現するのは危険だよね?下手したら限定されちゃう。」
ホロウ「どうだろうね、いまのところそれは感じてない。ただその、手段が多過ぎて参っちゃうみたいなのはある。まだよく判らないから。」
烏合「なるほど。」
ホロウ「だから、機材が揃うまで絵コンテ描いてある程度決めとかないとダメだなぁとぼんやり思ってるところ。」
烏合「そういう、意外な共通項が見つかるみたいなのって、面白いね。」
ホロウ「そうだね。自分もそこ気づいたときはああ、と思った。前から言ってるけどさ、俺が重要視してるのは詩っていうスタイルじゃなくて…」
烏合「ポエジーなんだよね。」ホロウ「そう。これまでに書いたものの中でも散々言ってるけどね。改めてそれを実感したね。」
烏合「詩人なんだから詩だけ書いてなさい、っていうアレに関しては?」
ホロウ「馬鹿げてるな、と思う。」烏合「(笑)」
ホロウ「マジな詩人に言われるならまだ聞く耳もあるけどさ…おまえ誰だよみたいなのに言われてもねえ。」
ホロウ「そもそも、ゲーテとかもそうだけど、みんななにかしら別のチャンネルを持って、いろいろな側面からおのれのなんたるかっていうところを追求してきたわけじゃん。」
烏合「うん。」ホロウ「すごい人たちがみんなそうやってやってるんだから、おれはそのひとたちに習うよ、って感じだね。すごくない人の助言なんかいらねって(笑)」
烏合「誰だよって(笑)」
ホロウ「人んちの庭にいきなり首突っ込んできて、木の位置がよくないだのここに鉢を置けだの喋りまくって、靴底についてた犬の糞置いてくような真似して、それで正しいと思ってるんだから凄いよ。」
烏合「しかも誰だよって(笑)」ホロウ「そう。」
ホロウ「そんで言うこと聞いてくれなかったって拗ねてんだよ。聞くわけねえだろうって(笑)」
烏合「だからその、さっきの逃げの話じゃないけど、純粋っていうのを免罪符にしてる…」
ホロウ「気持ちが大事だってんなら、おもちゃ売り場で駄々こねてるガキだって詩人だよ(笑)気持ちと作品って意外と連動しないものなのよ。ダウンタウンDX見ながらチョコチョコ書いた詩だっていいものはいいの。思惑とは違うところで真意って届くことあるから。意志で書くことはたいして重要じゃない、ていうか…意味無い。」
烏合「言い切るね。」ホロウ「うん。何年か前にさ、一ヶ月の間1500文字以上の詩を毎日書き続けますっていうの、ブログでやったじゃない?」「あったねー。」
ホロウ「そんときに、後半になるともうモチベーションなんかないんだよ。でも書くって決めたからって無理矢理ワード立ち上げてね…でもね、周囲が反応してくれたり、自分で読み返して面白いなと思ったのは後半に書いたものが多かったんだよね。」
烏合「ああー。」ホロウ「だからこう、伝えるべきテーマとか、そういうのを持つのももちろん悪くはないんだけど、意図しないっていうかね、いかに自分を無視するかみたいな、そういうところなのかなっていうのはあったよね。」
烏合「うんうん。」ホロウ「だからその、詩とは何ぞや、みたいなのをすごく押し付けてくるような人っていうのは、そういう感覚って判らないだろうなと思うんだよ。言葉は悪いけど、嗜みでやってるみたいなところなんじゃないかな、って思うことあるね。」
烏合「お茶やお花のお稽古的な。」ホロウ「そそ。で、フラワーアレンジメント習ってるのに気持ちは生花の大家みたいになっちゃってたりね(笑)」
ホロウ「俺が無責任ならお前らは怠慢だっつうの。」烏合「(笑)」
ホロウ「ああ、もう行かなくちゃ。」烏合「仕事?」ホロウ「うん。」烏合「詩人なのに仕事しちゃ駄目って言われるよ(笑)」
ホロウ「詩人は仕事じゃないんだから仕事しなきゃ駄目だよ(笑)詩人気取って胡坐かいてられる身分じゃない。」
烏合「この対談、次はあんのかな?」ホロウ「なにもかも彼次第、だな。」
ホロウはコーヒーを飲み干して出て行った。烏合路上は肩をすくめてゆっくりとコーヒーを飲み、それからどこかへと去っていった。
《おしまい》