長くも短くもなく終わりも始まりもまた
ただのみきや

たとえばある種の硝子を隔てて
見つめても そこには世の冷たい写しと
見飽きた己の顏しか見いだせないのだが
硝子の向こう 不可知な領域からは
こちらの姿が逐一観察できるように

ひと筋の時の流れに生きて逝く魚の如き人間が
仰いでも決して覗き見れない永遠とは
乾いた言葉であり概念
過敏な鼻には悪宗を放ち
口に含むと何処か哲臭いのだが

永遠からこちら側を見れば
時の始めから終わりまで全ての物事出来事が
目の前にある一つの花壇や菜園のよう
手を伸ばせばすぐに届く場所に在る

《時とは永遠の内に生じたひとつの小さな発火現象で
その始めから終わりまで全てが永遠の中に包み込まれている》

それはまるで満天の星空と終わらない花火の共演
一切の欠けも翳りもなく躍動し在り続け
絶えず揺らめいて凍りつくことはない

時の流れから釣り上げられ二度と戻らぬ魚たちも
誰にも記憶されず痕跡も残さず遥か彼方に没したものも
永遠という視座の前では一瞬たりとも失われず
その占める時空に瞬いている 焔の結晶のように
人もまた然り 「かつて」でも「やがて」でもなく
「いま」としてその視座の前に在り続け 
各々が異なる光彩を放つ決して尽きることはない


時の流れに縛られ
心は水鏡のように揺れながら世界を映し
世界もまた脆く揺らぐ鏡でしかなく
波紋と波紋はぶつかり 
時に心地よい響きを奏で
時に不協和音をもたらす
言わなければならない言葉を喉につまらせたまま
いつまでも置き去りにされた子どもの嗚咽や
真っ赤に熱した鋏で人生を裁断されて往く男の
ただ内壁にだけ響き渡る絶叫
あるいは長い影のようにどこまでもついて来る嘲笑
望まないざわめきばかり過敏になって

ああだから
熟れた鏡を持つ人よ
どうか たまには見つめないで
風に踊る木々を瞳に浮かべながら
花から花へ飛び回る蜜蜂の羽音に首を竦めながら
母親の腕の中でむずかる子どもの喃語を耳に含みながら

孤独の中で情報に溺れたまま
通勤の人の海に身を投じながら
恋人の瞳に過る不穏な影を認めながら
朝のニュースが通り魔となって
残して行った傷口に消毒も包帯もしないまま
コップに半分の牛乳を注ぎながら
そのあまりの白さに困惑しながら

それらを目にしながら  
たまにはそれらに縛られないで 
全ての事物事象の向こうから見つめている
決して見えない永遠と
目と目を合わせる
そんなつもりで

静止 して

百万分の一秒でも百万年でも
永遠の視座からは差ほどの違いもなく
それが見えなくても触れられなくても
わたしたちが捉えようとするとき
すでにわたしたちは捕えられている
あまねく織物のように織り込まれ編み込まれながら
そのほとんどを虚ろが占めるわたしたちの魂に
蜘蛛の巣の如く巡らされた弦が
いか様にも微かにも響いて来ないなんて 
誰にも言えはしないのだから




   《長くも短くもなく終わりも始まりもまた:2015年6月3日》










自由詩 長くも短くもなく終わりも始まりもまた Copyright ただのみきや 2015-06-07 14:08:33
notebook Home 戻る