サボテン
楽歌
「なんしてんねん?」
「さぼってんねん。」
答えた少女は、まるでトマトのようだった
屋上には風が吹いていて、6月は晴着の上から合羽を纏った
水色と混ざり合った少女は、何者でもなく
何物にもならずに、ただただ純粋なムラサキであったのかもしれない
少女は詩集をひらいていた
わたしの知らない若い詩人の詩集だ
「あはは。などと、楽しくもないくせに。
舌打ちは悪い癖だ。季節を首に巻いて、私は死ぬべきなのだ。
魚にはなれなかった。夏が来るまでは、待てそうにないから。」
少女が湿気を帯びたため息に、そんな言葉を織ったせいだ
ふいに背中がむず痒くなった私は、少女の声に埋もれるべきだと思った
そのためには、私が抱えていた孤独なんてものは邪魔でしかない
「・・・優しくある必要なんてあるのかしら?」
少女のそれが、トマトの言葉であったか、詩人の言葉であるのか
それともそれさえもただのムラサキだったのか
私には判らないままであったのだけれども
わたしはただ、ただの棘にならなければならないのだと
そんな気がしていた
嗚呼
少女が広げた手のひらに、私は突き刺さって生きていくのだ
それくらいしかできそうにないのだから
夏までは待てそうにない
6月が晴れ間に降らせた雨は、少女の髪を滑り落ちながら
細い首を狙っている。