そしてすべてはあるべき色に
ホロウ・シカエルボク










青い血と、黒い血―白い血
すべてが、交ざりあって


赤い血


深い沼のよどみは
美しい湖よりも信じられる
汚れた水面のしたに
隠れたものの数が
正直の度合だ


細い針が
セメントの壁を掻くようなノイズ、耳の奥で…
明るい夜と暗い夜が
混ざり合いながら
めくら
浮浪者たちが人気のない公園で
薄呆けた星空を見上げながら
どうしようもない酒を酌み交わしている
どうしようもない
酒を


咳をするように時々、不調法な血管が膨れ上がっては
焦れた血液を一気に心臓へと送り込む
疲弊した頬は上気し
思春期の不具とでもいえるような熱が
瞬間体躯で生えふさぼり
明方の短い眠りの間の
夢のように消える
そんな閃くようなものたちの死体が
ポンコツの心臓の底辺で堆積している


産まれなかった赤子たちの夢と
鳴り響く賛美歌の残響
アヴェマリアの唇は血塗れで
サタンはやさしく彼らを取り上げる
贄の為ではなく
もう一度
産まれなおさせるために


もっとも混沌として
静寂とノイズ
アンバランスが連続すればそれは調和だ
真っ白な月が輝いている
死ぬのを忘れた猫の目のように
捨てられたクロワッサン
蟻たちが色をつける
街路の
街路の
おそらくは誰の目に留まることもない転生
ああ
ジャンクヤードには過去の愛が投棄される


おびただしい掻き傷と膿んだ目のバラッド
午前零時のボーダーラインでこんがらがって
灯されたろうそくの明かりは不安定だ
太陽が在りし日の記憶
目を焼くほどに炎に近づける
光度はどんな救済にもなりはしない
光の在り方は他のどんなものよりも冷徹で残酷だ


行方不明者たちの死体が集まるモルグでサンドイッチ
カラスはどこかでこちらの姿を見かけたらしく
咎めるように鳴き続けている
分けて欲しいのか!
窓も開かずに叫んではみたものの
コミュニケーションに手を出すほど彼らは堕落してはいない


路地裏!
脚を切り取られた雌猫がおかしな走り方で逃げる
彼女が見たものは彼女よりはるかに大きないきものの―それよりもさらに大きな
弱気
なぜあれほどにも大きないきものが
この私などの脚を切り取らなければならないのだ
よろめきながら
彼女は考える
だが待て
そいつはあんたの後ろでいま大きな石を振りかぶっている


どうしようもなく血の海
轍を歩いていてそこにたどり着いた
絶対的に赤い水面からは
ところどころにノートのようなものが見えた
拾い上げてみるとそれは日記のようだった
赤く塗り潰されていてどんな日の記述も読み取ることは出来なかったけれど
裏表紙に書かれた名前には見覚えがあった
気付かなかったふりをしてまたもとのところに戻した
いちど持ち上げられたそれはいっそうの血を吸って
見えないところまで沈んでいった
まるでそれがそいつの役目であったとでも言うように


それはたったひとつの出来事じゃない
それはたったひとつの意志じゃない
それは正しいとか間違いとかいうようなものじゃない
それは都合のいい部分だけを抜き取っていいものでもない
あるものはあるがまま
当り前にうたわれることを宿命としている
本当に産まれてくるものは存在を感じさせない
いつのまにか伸びている影のように気付いたらそこにいる


悲鳴だからと恐れてはいけない
暗闇だから見えないということはない
夜が明けたから救われるなんて信じてはいけない
もしもなにかしら確信していることがあるならいますぐに恥じた方がいい


貫通してまだ
その先の道が出来上がっていない辺鄙な山の短いトンネルを
歩いて潜ってみたことがある
そこにあるのは犯されかけた女のような山肌であり
妙に大人しい声で鳴く姿の見えない鳥たちだった
その不完全はまもなく失われて
ただのトンネルと二車線の舗装道路になった
あのとき、トンネルを出てすぐの地面に
血を垂らして埋めた
それはすぐに土の中に隠れて行った


渇いて、錆びていく安っぽいデカダンス
退廃なんて最早笑い話ほどにお決まりだ
誰かが首を吊ってぶら下っている観光地の展望レストラン跡で
そこには居ないはずの影をいくつか見た
そいつらはなにも語りはしなかったが
蝉の幼虫のように愚かしく美しかった
どんな決まりごともなかったので
首吊り死体が腐り落ちるまでそのあたりで見ていようと思った


そいつが処刑台で崩れ落ちたのは二週間後のことで
顔は
確かにいちばん見覚えのある人間のものだった
この夢は覚めるのか
俺は




ハムノイズのように鳴り続ける空を見上げていた













自由詩 そしてすべてはあるべき色に Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-06-04 00:09:29
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