6月の雨
藤原絵理子
雨の夜の物語は 濡れた
石灯籠に絡みつく 蛇の赤い舌先に
想いは 蛍火にほの暗く 闇に
浮かび上がる 老いた眼は 涙に濡れている
森が深さを増し 光を拒み始める
明るい陽光に踊る 生命のダンスとは裏腹に
秋に散り積もった葉は 朽ちて腐って
暗闇の中に繋ぎとめる 骨と肉の記憶を
耐え続けていた 約束を信じて
花は散り果て 若い緑は眩く跳ね回る
病に痩せた腕は 干からびた枯れ枝になる
病室の天井灯は 濁って頼りなく
虚ろに映し出す 酸素の泡と音にくねるチューブ
今夜もひとり 苦しく美しい世界を後に 旅立っていく
自由詩
6月の雨
Copyright
藤原絵理子
2015-06-03 22:01:33