密室
ゴースト(無月野青馬)

(この密室の中に)
(メモを残すから)
(いつか見付かってほしい)
(短い言葉しか書けないけど)
−・−・−・−・−
密室の中で
白骨化した遺体の書き残したメモ帳
そんな不吉な
メモを見付けた
初めのうちは寝ても醒めても
薄ら寒かった
誰も来なかった?
何で救助はいつまでも来なかった?
−・−・−・−・−
死を想像することなんて無意味
死を想定することも無意味
呼吸を時々忘れて
意識しないと酸素が吸えない
“わたし”は昔からそうで
吸入器が手放せない
−・−・−・−・−
白骨化した
“きみ”は
どんな個だった?
足は速かった?
それとも遅かった?
−・−・−・−・−
スペランカーってゲーム知ってる?
“わたし”はそれが好きだ
蝙蝠の糞で死ぬスペランカー
段差から落ちて死ぬスペランカー、好きだ
“きみ”はどうしてこんな密室で死んだ?
もしかして、“きみ”は
スペランカー体質だった?
−・−・−・−・−
(南無三)
(ニッカリ青江)
(刀)
(“ぼく”は死んでるけど)
(なぜかこの世にまだいる)
(“ぼく”はぶつけられた質問に答えたいけど応えられない)
(スペランカー知ってるよ)
(でも)
(“ぼく”はスペランカー体質じゃなかった)
(むしろマリオ的パシリされてた)
(足が速かったからかな)
(陸上部だったし)
(でも)
(喘息持ちだから)
(吸入器を手放せなかった、“ぼく”も)
(喘息克服するために走ってた)
(それでも)
(学年の中では1位か2位の速さでも)
(大会では予選落ちのレベルで終わった)
(どうしてそんな密室で死んだんだろう)
(インターハイに出られなかったからかな?)
(それとも)
(ドラゴンボールがもう少しだけ続いたから?)
−・−・−・−・−
(何者にもなれなかった)
(深海魚、シーラカンスみたいに)
(のそのそしてた)
(シーラカンスの方が学術的価値があって羨ましい)
(たとえば)
(“ぼく”は)
(陸上部以外に何かを完遂したことがなかった)
(だからといってやる気がないわけじゃない)
(メモ帳くらいは残しておきたいと思った)
(何の役に立つのか分からなかったけど)
(気が晴れたから)
−・−・−・−・−
真空管アンプみたいな密室の中
“白骨化くん”の手書きのメモがある(あと骨も)
なんとか意気消沈しないでいられる
“わたし”の気はけっこう紛れる
ありがとうという言葉は
こんな時にこそ吐くべき言葉なのかもしれない
−・−・−・−・−
“白骨化くん”は何日間この密室の中にいた?
何日間生きていられた?
“わたし”も気が晴れるようなことをしておきたいって
“きみ”を知って思った
“わたし”には何が書けるか
どんな言葉を残すべきか
“わたし”は居直った
吸入器も捨てた




自由詩 密室 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2015-05-31 22:48:42
notebook Home 戻る