クリーン・ルーム
ホロウ・シカエルボク









デスクに投げ出されたままのボールペンが
扇情的なひとことを書きたがってる
牛乳で流し込んだコーン・フレークの糖分が漂ってるあいだ
チェアーの背もたれに身体を預けて口だけがとりえの年寄りみたいになってる
昨日電話をかけてきた友達の名前が思い出せない
一時期はかなりつるんでいたやつだったけれど
思い出そうという気にならないので
とりあえず運命にあずけておくことにした


天気予報の通りに雨は上がったがいまひとつすっきりしない天気だぜ
陰口の得意なやつみたいにグジグジとした空気だ
そのせいか飼犬のように表に躍り出るような気分になれなくて
昔書いた話を読むともなく読み返している
まだ自分に出来ることがあるのは愉快なことだ
それが自分以外の誰かにとってどんなささやかなことだろうとも


テレビで見慣れた人間が死んだというニュースばかりがこのところ
次から次へとメディアで飛び交ってる
B・B・キングが殺されたらしいって本当かい?
こんな安直な言い方はなるべくならしたくはないけれど
それが本当だったとしたらブルースマンとしては上等な結末に違いない


新しいロックがちっともロックには聴こえないから
このところローリング・ストーンズばっかり聴いてる
「そんなのはあんまりいいことじゃない」って何人かに忠告されたけれど
そいつらのほとんどは二元論で出来上がっていたんだ
ああ、俺は読みかけの本をまた読みかけのままで閉じながら
あいつらのお決まりのセリフを真似てみる
そうしておかしくなってひとりでげらげら笑うんだ
あいつらいつだって苔生した墓を守ることぐらいしか思いつかないんだから


今日日ニュー・カマ―には莫大な期待と責任が押し付けられる
新しいものは新しいとみんなが信じているからだ
見慣れない顔はなにかとんでもないことをしてくれるに違いないと
人任せな刺激に瞳を輝かせているからだ
新しいもののたいていは新しくはない
デビューの一声なんてたいていそいつ自身じゃない
まだ憧れの湖に首まで浸かっている段階だからさ
新しいものを期待するならやり続けている連中のところに行くのが一番
進化の種は気が遠くなるような蓄積のなかにしかないものさ


時々嘘つきのように魂の話ばかりをする連中が居る
そんなもの吹聴したって誰も納得しやしないさ
そいつの描き出すものに熱狂的な感覚がなければ
詐欺師と同じカテゴリに名前を書かれるのがオチさ
俺はテレビを見ながら少しずつ書くこともあるけれど
そうやって書いたものだから誰もなにも感じないかというとまったくそんなことはなかった
むしろそいつは俺にとってもお気に入りのひとつだったりする
スピリットが先走れば臭いにおいがするばかり
背筋を伸ばして書いたところで駄目なやつは駄目なのさ


ああ!夏の始まりのエアコンはなんて革命的なんだ!
アイス・コーヒーを飲みながらスティッキー・フィンガーズ
ロックンロールは死んだ、なんて小僧の話にゃ聞く耳持たない
このアルバムが何回発売されたか知ってるか?


ともあれもうすぐ呪うべき梅雨の始まり
六月の湿気はなにか刺激的なことをするのに適当とは言えないが
そんなときだからこそウォーミングアップをきちんとしておかなくちゃな
俺の英雄は六月に死んだ
バック・ドロップで起き上がれなかったんだ
あと二年もすれば俺、あいつと同い年になるんだぜ
歳を取るって本当に驚くべきことなんだ


ころころと変化する周囲に置き去られないように
目を見開いて世界を眺めている
眠くて仕方がないときもあるけれど
目を閉じてしまうにはすっきりする必要がある
だけど
そんなことより大事なことは
自分を見失わないようにしなくっちゃ
気持ちに引き摺られて自分を見失うと
落度があっても気付くことが出来なくなる
いつでも窓を開け放して世界を睨んでいるやつのその部屋の床は
吹き込んだ埃でこっぴどく汚れているとしたものだ


笑っちまうぜ
俺は
清潔な靴下を履いていたいだけなのさ







自由詩 クリーン・ルーム Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-05-31 15:08:36
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