無音
レタス


この街は錆びていた
無音の煙りと
もろみの匂い
誰もいない

2両編成の電車の音だけが人の予感
バンドネオンが
かすかに響く
黄昏の街

彷徨った果てに
たどり着いた
そこは静かな街だった

オルゴールという店に入ったのは午前零時を過ぎていた
誰も居ないカウンターの中には
機械仕掛けのママの一言
真鍮の潜水具だけが寂しさを磨いている

ただ酔うのを待つばかりで
紫煙を流し
古びたカウンターに
まなこを落とすだけ

忘れたものなどは無いはずだった
それでもこの街は寂しくて
今朝みた花を想う
こんなにも寂しくて

薔薇の季節なのに
そこには椿が咲いていた



自由詩 無音 Copyright レタス 2015-05-31 05:45:29
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