無音
レタス
この街は錆びていた
無音の煙りと
もろみの匂い
誰もいない
2両編成の電車の音だけが人の予感
バンドネオンが
かすかに響く
黄昏の街
彷徨った果てに
たどり着いた
そこは静かな街だった
オルゴールという店に入ったのは午前零時を過ぎていた
誰も居ないカウンターの中には
機械仕掛けのママの一言
真鍮の潜水具だけが寂しさを磨いている
ただ酔うのを待つばかりで
紫煙を流し
古びたカウンターに
まなこを落とすだけ
忘れたものなどは無いはずだった
それでもこの街は寂しくて
今朝みた花を想う
こんなにも寂しくて
薔薇の季節なのに
そこには椿が咲いていた