墓を暴く
じぇいぞろ
肺がすっかりしぼんでしまったから、
彼女の吐息で満たしました。
吐息に思えましたが、空気でした。
彼女は存在しません。
しかし、朝やかましいすずめの声などいろんな媒体に憑依して現れます。
医師は幻聴と診断しました。
統合失調症だと。それはどうでもいいことでした。
ある月の出る静謐な夜。
懐中電灯を頭に取り付け、彼女の墓を暴きに行きました。彼女が呼んでいました。暗くてさみしいと。
一番新しくて白い陶磁器なので分かります。眠っているのを起こしてごめんねと詫びながら、骨をもって帰りました。
風邪薬の入っていた瓶に喉仏の骨の一部などを入れて、出かけるときはいつも胸ポケットに入れて持ち歩きました。
カワセミの飛ぶ小川
乱舞するゲンジボタル
山頂から見る金星や天の川
ドリカムのワンダーランド
サザンの年越しライブ
ホークスの鷹の祭典
ミニのツーリング
友人とのバーベキュー
生きていた続きを、そこからはじめたのでした。
新しい想い出を。