黒い袋
島中 充

さかなの匂うまちから 黒い袋を抱えて
私は電車の座席にすわっている
黒い袋をおさえて
乗客の視線が私の膝の上に集まっている
おさえても おさえても 黒いゴミ袋が飛び跳ねるのだ
まだ生きている

私はきのう見た夢の事を思い出していた

海岸に陽に照らされて乾物のように干からびた大きな魚
それはおれの弟だと父は言った
蠅の黒くたかった魚 
ニューギニアで戦死した弟だと言った
流木を集め 浜辺で燃やした
湿った流木は小さくしか燃えなかった ちょろちょろと燃えて
腹から
頭から
眼球から
出てくる 出てくる 
うじむし
そして父は指さしながら 口を開いた 
そのうじむしを食え
そのように人間は生きてきたと
そしてそのように死んでしまった
海のかなたから 密林の奥から
黒い鳥が集まって来た
魚の周りに這い出してきたうじむしを 夢中でついばんだ
私はうじむしをついばんでいる黒い鳥に成っていた

人間は黒いごみ袋を懸命に抑え込んでいた
父も叔父もごみ袋の中でとうに死んでいた

私は家に帰り袋の中から魚を取り出した
もう跳ねたりしない
えらの後ろから出刃を差し込み 頭を切り落とした
私は それを箸でたたきながら 
焼いて 食った


自由詩 黒い袋 Copyright 島中 充 2015-05-26 15:30:01
notebook Home