猫舌
やまうちあつし

君は猫舌だから
猫語しか話せない
だから大抵話が通じず
そのせいでこれまでも
ずいぶん痛い目にあってきた
けれどどうだろう
それでも頑として
猫語を話すことをやめなかったら
次第に話の通じる相手が
街に増えてきたではないか
おかげで
買い物をするにも
散髪をするにも
難なく事を成し遂げられる
おまけに悩みの相談にまで
乗ったり乗られたり
たいへんにあたたかいのだ
気候が変わったのだろうか
ある晴れた日曜日
ビルのガラスに映った我が身を見て
君は目を疑う
青いシャツを着て
ジーパンのポケットに手を突っ込み
いっぱしの若者みたいに
仲間と楽しく談笑している
おっといけない
これではまるで
人間のようではないか
君は荷物をまとめ
街を出ることにする
行こう
話の通じる相手が
誰ひとりいないところへ
君は猫の言葉しか
これからも話す必要はない
だって猫舌なんだから
ざらざらのすりすりなんだから


自由詩 猫舌 Copyright やまうちあつし 2015-05-26 13:32:10
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