自我像/十七歳
かんな




零をさがした朝に目が覚めると
太陽がたったひとり寂しそうで
誰もがこどくを噛みしめ針の痛さに怯える
ことばの痛みを恐れる
決して優しいことではないけれど
幼い頃何も知らずに踏みつけた蟻を
今思い出し泣いてしまう弱さ

毎朝種をまいてわたしを育てる
自分という花を咲かせたいだけなのだと
生へ生へと幾度も執着して挫ける
将来という曖昧なレールに安易に乗れずにいる
不器用なのだと誰かが言う

昔書いた拙い詩の四連目から脱落していく
絵本が好きだったのです今でも好きです
記憶がわたしの存在証明なら嬉しい
今日は暑いかもしれなくて喉が渇く
数えきれない繋がりの中で一つだけ接続を試みる
愛や恋を叫んでしまう脆さ
そして生きていくことから避難する

海を眺めたまま空に青さについてきく
あの夏わたしは太陽に向かって黄色く咲いていた
クレヨンで描く下手くそな風景画が眩しい

季節の指結びをいつまでも固くしばりつけた樹木に
かたくなな耳を触れさせて声をきく
根からそのてっぺんへと走り出す水のあどけなさを
残したまま葉から空気に溶けた蒸気を追う
樹皮の匂いを抱いて風に流せば
腕を広げて手放したものの大きさをはかる
ありのままでいたいとささやいた自然をなでる
ふりかえるきせつふりむきざまのかまいたち
きれいごとが生まれた海の上流に決してやましさはないから

訂正済みの標識など見つめないでほしい
つながりひろがりくらがりこわがりつよがり
横断歩道を渡ってわたしを愛してほしい

とめどない空気のふれを必要以上に求めて
呼吸するたびに酸素と窒素が肺に絡まり流れた
懐かしい友の笑顔を時間の経過以上に美化して
母に伝えきれない愛を求めてくだけた
時にいつわりの恋に身をゆだね傷つき
そのおもかげを父に映してはこどくになる
ゆうぐれは悲しみの象徴として落ちていき
ともしびのまたたきに涙の渇きを覚えてしまう

そしてバカげた遺書の真似事をして紙に記す

アイデンティティの崩壊を前にして
わたしはわたしを保存する






自由詩 自我像/十七歳 Copyright かんな 2015-05-26 06:35:27
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