一滴の水
為平 澪

夜が瞼を開く瞬間、こぼす水の、まるさ
破水された、と誰かが告げている

       ※

胎児が泣き出す前に 夜に流す青白い炎
足跡もなく川を渡ってゆく男に
胎児と同じ重さの水が 土に還る

       ※

地上がひび割れないように 男を埋めた
スコップで傷つけた男の胸から
海があふれだし 淋しい産声が聞こえてしまう
       
       ※

夜明けの川面には 夢の粒子
男をぬらす 末期の水
唇から 感染する 蜜
女の いちばん やわらかい所で
男は ほどかれ ぬくもりに 燃やされてゆく


自由詩 一滴の水 Copyright 為平 澪 2015-05-25 22:01:52
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