みずにゆらぐ
ただのみきや

揺るがないものが揺らぐ
仕方のないこと
ありのままを見ているつもりで
水鏡に映った姿を見ているから
冷やかな風にさざなみ
優しい陽射しに微笑み
自らの夢を重ね映して

時を凍らせた写真
岩に刻んだ文字も
揺れる のは
    ひとの心

どしゃぶりの雨と抱き合って
目を閉じ シャッターを切る
画像でも動画でもない
ひとつの場所で
ひとつの石だった
体温を分かち合い
互いの感触を確かめても 尚
決して混じりあうことのないもの

わたしたちはそれぞれ
遠く離れた沼の主だった
生まれつき目を持たない魚
全身の皮膚を裏返したように
世界と苦痛で触れ合うしかなく
飢え渇き
渦巻きながら
声にならない声で呼び合った
他に魚一匹いない
孤独の沼で

雨が降る
天気予報のせいではない
当たりでも外れでも
好ましくてもそうでなくても
雨は降るべくして降り
わたしたちは出会うのだ
運命として飾り付けても
偶然として破り捨てても
快楽であれ苦痛であれ
何をもたらすとしても
そうして互いを
己が魂のように抱きながら
決して混じり合うこともなく
本当は何も知らないままで
ただ感じ 
揺らぐだけ


     《みずにゆらぐ:2015年5月23日》




自由詩 みずにゆらぐ Copyright ただのみきや 2015-05-23 19:38:49
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